表面抵抗値と表面抵抗率

電子機器は回路設計の段階で多くの対策がなされておりますが、それでも製造工程等でのESD破壊現象を完全に防ぐことは難しいです。そのため、製造工程に用いる治具等のESD対策を行うことが必要となってきます。ESD対策を行う上で、用いる部品の表面抵抗を把握することは非常に重要となります。

 

表面抵抗は、オームの法則より求めることができます。

 

 

表面抵抗値は単純に2点間の電気抵抗であるため、電極の形状や電極間距離に依存して値が変化してしまいます。そのため、測定値毎の比較が難しくなります。それに対して、表面抵抗率は単位面積あたりの抵抗値を示すため、ESD対策を検討する上で有用な値となります。

 

PBIアドバンストマテリアルズでは、各種資料に製品の表面抵抗値を記載しております。これらの資料中での表面抵抗値は、ANSI/ESD STM 11.13に準拠して測定された表面抵抗値になります。本規格では2ピンプローブが用いられ、この電極の直径 (l) が1/8インチ、電極間距離 (w) が1/8インチとなります。上述した式より表面抵抗率 (ρs) を求めると、以下になります。

ρs = Rs × l/w = Rs × {(1/8)/(1/8)} = Rs

上式より、ρs = Rs となります。つまり、本方法で測定した表面抵抗値 (Rs) は表面抵抗率 (ρs) とほぼ同義となります。

 

 

材料選定時の注意

表面抵抗率測定の際、表面を流れる電流以外にも物質内部を流れる電流も同時に計測されてしまいます。

 

 

 

 

 

そのため、測定物の厚みが変わると、物質内部に伝わる電流量も変化します。つまり、物質の厚みに依存して表面抵抗率の実測値は変化してしまいます (表面抵抗率は材料固有の値ではありません)。

ESD対策として実際に使用する状態での表面抵抗率を検討することは有用ですが、材料選定時には形状依存のある表面抵抗率を用いないほうが良いと思われます (大まかな数値を把握するには表面抵抗率は便利です)。

材料選定時には、材料固有の値である 体積抵抗率 を用いることが推奨されています。

 

 

ESD対策と表面抵抗率

ESD対策を行う上で表面抵抗率は重要な因子となります。表面抵抗率の違いによる生じる主な特徴を以下に示します。

 

効果 IEC ESD Association
静電気シールド性 その物質で空間を囲んだ際、その内外で静電気の移動が生じない。 <103 Ω/sq.
静電気導電性 ほとんど帯電せず、静電気の発生源になりにくい。
激しいESDが発生する可能性がある。
102–105 Ω/sq. <104 Ω/sq.
静電気拡散性 帯電しにくく帯電しても拡散し放電しやすい。
ESDが発生しても急激な電圧変化は起こりにくい。
105–1011 Ω/sq. 104–1011 Ω/sq.
静電気絶縁性 容易に帯電し、静電気の発生源となる。 >1011 Ω/sq. >1011 Ω/sq.

 

上表から分かるように、静電気拡散性材料がESD対策には有効です。その中でも、静電気を発生させたくなければなるべく低い表面抵抗率のものを、ESD発生時に急激な電圧変化を生じたくなければなるべく高い表面抵抗率のものを選択することになります。

IEC (International Electrotechnical Commission) とESD Associationによる表面抵抗率の範囲も示しましたが、それぞれの団体で数値が若干異なります。この2団体以外にも様々な個人・団体が最適な表面抵抗率について提唱しておりますがその値も様々です。実際使用する環境や目的によっても最適値は変わってくると思いますので、上表を参考に使用環境と目的にあった表面抵抗率をご検討いただくのが良いと思われます。

 

 

表面抵抗率測定に影響を与える因子

表面抵抗率は測定時の外部環境の影響を受けてしまいます。ここでは、表面抵抗率測定に影響を与える外部因子について考えてみます。

 

-温度の影響

表面抵抗率の測定値は温度の影響も受けます。電圧をかけた際、物質中で電子は原子核の間を縫って移動していきます。この電子の移動 = 電流になります。

 

 

この時、温度を上げていくと原子核の振動が活発になり、電子の移動を妨げるようになります (抵抗が大きくなる)。逆に、温度を下げていくと原子核の振動は遅くなり、電子が移動しやすくなります (抵抗が小さくなる)。更に温度を下げていき絶対零度に達すると抵抗はほぼゼロになります (超伝導)。

金属等の場合は上記の通りなのですが、半導体や絶縁体では少し異なってきます。導体の場合は、価電子帯と伝導帯が重なっているか非常に近いため、電子は自由に移動することができます。しかし、半導体や絶縁体の場合、価電子帯と伝導帯の間に禁制帯があるため、電子が移動するためにはこのバンドギャップを乗り越える必要があります。

 

 

半導体や絶縁体の場合、温度を上げていくと熱エネルギーにより電子がバンドギャップを乗り越えやすくなるため、抵抗は小さくなっていく傾向にあります。

 

-湿度の影響

#1でも述べましたが、湿度の高い環境では物質表面に水分子の膜ができます。この膜を通って電気が流れるため、高湿度環境では抵抗は小さくなる傾向にあります。また、表面抵抗の大きなものほど湿度の影響を受けやすくなります。

 

 

-サンプル形状の影響

表面抵抗率測定値は、サンプルの表面形状によっても変化します。表面形状によって電極の接触面積が変化してしまうためです。

 

 

 

次回は、PBIアドバンストマテリアルズの導電性素材についてご紹介したいと思います。

 

 

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